不妊症治療薬の効能および副作用
Ⅰ. 排卵誘発剤
内服薬
- クロミフェン(クロミッド);
クロミッドには抗卵胞ホルモン作用があるため内服すると卵胞ホルモンによる下垂体へのFSH(卵巣を刺激し卵胞を発育させます)分泌抑制がなくなり、下垂体からのFSH分泌が増加し卵巣に卵胞が多く育ちます。クロミッドは長く効いているため、子宮内膜が薄くなったり、頸管粘液が出なくなったりしやすくなります。したがって38歳くらいを過ぎるとタイミングでは精子が子宮に侵入しにくくなるため、妊娠しづらくなります。着床もしにくくなると考えます。 - レトロゾール(フェマーラ);
アロマターゼ(体内で男性ホルモンから卵胞ホルモンを造っている酵素)という酵素を阻害し体内で卵胞ホルモンを造らなくします。これを内服すると、体で卵胞ホルモンが造られないため下垂体へのFSH分泌抑制がなくなりFSH(卵胞刺激ホルモン)が多く分泌され卵胞が複数発育します。フェマーラは長く効いていないので子宮に対する内膜を薄くする作用は少ないので、38歳以上ではクロミッドより良い可能性があります。
皮下注射
- リコンビナントFSH製剤(ゴナールエフ、レコベル);
遺伝子組み換え技術を用いて工場で製造したもの。FSH(卵胞刺激ホルモン)作用のみ。不純物がなくアレルギーを起こしにくい。感染の心配がない。成績は尿由来のものと変わらないとされています。費用がより高いです。 - 精製FSH製剤(ゴナピュール、フォリルモン、uFSH);
閉経後女性の尿から抽出しLHを除き精製したもの。FSHの作用、多嚢胞卵巣や反応の良い年齢の若い女性に使用することが多い。 - HMG製剤(hMGフェリング、hMGフジ、hMGテイゾー);
閉経後女性の尿から抽出精製したもの。FSHとLHの作用。卵巣低反応や年齢の高い女性に使用することが多い。
Ⅱ. HCG製剤
発育した卵胞の成熟を促し、受精の準備をさせ排卵に向かわせる注射製剤です。筋肉注射とされていますが実際的には皮下注射で行います。
下垂体から排卵の引き金として出るLHと似た構造を持っていて同じ作用があるのでLHの代わりとして使用します。妊娠中に形成される胎盤から抽出し製造します。
5000単位で1週間、10000単位で2週間体内に残存し卵巣を刺激します。
GnRHアゴニストの点鼻のトリガーでは短い時間しか卵巣を刺激しないので、OHSS(卵巣刺激症候群)になり易い場合卵巣良好反応例では、HCGは投与せず、GnRHアゴニストの点鼻薬をトリガーにします。
Ⅲ. 排卵を抑える薬
- GnRHアゴニスト;スプレキュア、ブセレリン、ナファレリール(点鼻薬)、リュープリン(月に1度の注射、子宮筋腫や子宮内膜症の治療)
不妊症分野では点鼻薬を使います。使用目的には2種類あります。
(1) 下垂体を強く刺激してFSH, LHを強く放出させます。毎日使うと下垂体は疲れてFSH, LHを出さなくなり排卵しません。
(2) 排卵の引き金として使用します。卵胞が発育して成熟したら、点鼻薬を1度だけ使用します。下垂体が強く刺激されて、LHが放出され(LHサージ)38間後から排卵が始まります。
- GnRHアンタゴニスト;セトロタイド、ガニレスト(皮下注)、レルミナ(経口、筋腫の治療用、日本製)
GnRHアンタゴニストには以下の働きがあります。
下垂体のGnRHレセプターに接着し、FSH, LHを放出しなくさせて、排卵を抑制します。この接着は強くないので、GnRHアゴニストの点鼻薬を使用すると、接着がはがされて排卵が起こります。
Ⅳ. 黄体ホルモン
- 内服薬;デュファストン、プロべラ、ルトラール、ヒスロン
妊娠するとデュファストンにする場合が多いです、ルトラールは海外ではあまり使用されていません。
- 膣錠;ルティナス、ウトロゲスタン、ルテウム
自己投与できるのが利点ですが、血中黄体ホルモンが上がりにくい人がいるので経口剤と併用することが多いです。
- 筋肉注射;プロゲストン、プロゲデポ―
血中黄体ホルモン濃度が高く上がり、内膜を機能させるためには一番効果的だと思います。ただし注射なので痛みがあり、自己注射が難しく、注射部位が固くなります。
Ⅴ. 卵胞ホルモン
- 内服薬;プレマリン(E1)、プロギノーバ(E2)、ジュリナ(E2)
卵胞ホルモンは体内でE1, E2, E3と変化して排泄されていきます。E2の作用が一番強く、採血して測定する場合は、E2を測定します。プレマリンはE1で日本製です、腸管で吸収されて肝臓でE2に変化し働きます。
- 貼付薬;エストラーナ(E2)
皮膚から吸収されてそのまま働きます。単独では血中濃度が上がりにくいので、枚数を増やして張ります。
Ⅵ. 高プロラクチン血症の治療薬
カバサール(内服薬)
週に1度の内服で血中プロラクチン濃度を下げます。悪心、便秘、頭痛などの副作用は強くありません。
Ⅶ. 免疫抑制剤
タクロリムス(内服薬)
着床に際して受精卵に対する免疫的拒絶を防ぎます。ヘルパーTリンパ球1の働きを抑制します。以前は同じ目的でステロイドを使用していましたが、タクロリムスの方がより効果的です。
Ⅷ. 漢方薬
補中益気湯、八味地黄丸;精子減少症、精子無力症 柴苓湯;習慣流産
当帰芍薬散;不妊症、卵巣機能不全
漢方薬は効果が穏やかなので補助的に使う場合が多いです。