カウンセリングって何?
生殖心理カウンセラー・臨床心理士 平山 史朗
現代は「こころの時代」だとよくいわれます。同時に「カウンセリング」や「カウンセラー」、「こころのケア」などの言葉もよく耳にするようになりました。また、最近では不妊症治療においても「精神面のケアが必要である」という認識が持たれはじめ、「カウンセリング」を実施しているという病医院も出てきたようです。でもどうでしょうか? 患者様からすると、カウンセリングとはどのようなもので、それを受けるとどのような効果があるのか、カウンセラーというのはどのような仕事をするのか、なんだかよくわからないのが実感ではないでしょうか。そこで、これからカウンセリングについて、少し説明したいと思います。
カウンセリングとは?
「カウンセリングとは何か」ということを説明するのはとても難しいのですが、クライエント(カウンセリングではよく患者様のことをこのように呼びます)が抱えておられるさまざまな「こころの問題・悩み」を、主にカウンセラーと「話すこと」を通して、答えを見つけたり、どうすればもっと生きやすくなるかを一緒に考えていくプロセスであるということができるでしょう。
カウンセラーとは?
カウンセリングはクライエントとカウンセラーの対話によって進んでいきますが、多くの場合、カウンセラーは専ら聞き役になろうと努力します。すなわち、カウンセラーは「話を聞く専門家」であるといえます。
話を聞いてもらうと何が変わるの?
それではカウンセラーに話を聞いてもらうとどうなるのでしょう。これに答える代わりに皆さんにお尋ねします。これまであなたは、「自分の話をしっかり聞いてもらえた、自分のことを理解された」と心の底から感じられたことがどれほどあるでしょうか?私たちは案外人に自分の話すことをしっかり聞いてもらう体験をしていないものです。普段私たちは困ったことがあると親しい人に相談します。すると、その人は「アドバイス」をくれることが多いと思います。もちろんそれが役に立って問題が解決することもたくさんあります。でも、なんだか自分の話しが遮られてしまったり、考えを押し付けられてしまったように感じることはありませんか?それは相談を受けた人がその人の価値観で「答え」を与えようとするからではないでしょうか。カウンセリングでは、アドバイスをすることは比較的少ないでしょう。なぜなら、問題に対する「答え」はクライエント本人が持っていると考えるからです。カウンセラーはクライエントが自分で自分の持っている(時として見失っている)答えを見つけられるようお手伝いするのです。そのための方法が、「ひたすらしっかり聞く」とでもいうカウンセラーの態度なのです。自分の話を聞いてもらえることは、とても心地よい体験としてあなたに感じられることでしょう。別の言い方をすれば、カウンセラーがあなたの話を受けとめて聞くということは、実はあなたがあなた自身と向き合うということでもあるのです。私たちは自分の姿は鏡がないと見ることができませんよね。カウンセラーはあなたの「こころを映す鏡」になりたいと心掛けています。カウンセラーという鏡に自分の心の有り様を映し出してみるという作業を通して、それまで以上に自分のことが深く理解できるようになり、自分らしく生きていく方法を自分で見つけていけるようになるのです。
不妊は「こころの病気」なの?
さて、ここまでの話でカウンセリングが「こころの問題」を扱うのだと聞くと、「不妊はこころの病気・問題なのか」と思われるかもしれません。でも、カウンセラーの扱う「こころの問題」というのは、いわゆる「精神疾患」と同じではありません。もちろん精神疾患に苦しむ方もカウンセリングの対象となりますが、ここでいう「こころの問題」とは、「人間関係の問題」、「生き方の問題」、あるいは時には「からだの問題」をも含む非常に広い領域を指しています。このように考えると、不妊の問題はカウンセリングの扱う範囲に含まれることが理解されると思います。決して「異常」な人のためのものではなく、「自分がよりよく生きていくために利用するもの」と考えていただきたいと思います。
カウンセリングは受けなければいけないの?
もちろん、カウンセリングを受けたいと思われる方にとって、カウンセリングは何らかの役に立てることが多いと思います。しかしカウンセリングは「絶対に受けなければならない」という性質のものではありません。ただ、苦しい時に「自分で耐えなければいけない」と考えてしまう患者さんが多く見られるのは残念なことです。カウンセリングを受けることは「精神的に弱い」ということでもなければ「異常、病気」というわけでもありません。カウンセリングにはまだまだ否定的なイメージがついてまわることがあるのですが、先ほど記したように自分の生き方を考えていくために積極的に利用していただきたいと思っています。
不妊の問題に関して、以下のような時には特にカウンセリングを受けることをお勧めします。
これからの治療をどうしようかと考えている/本当にうまくいくかどうか不安でしょうがない/パートナーが治療に協力的でない/うまくいかないのは自分のせいだと責めてしまう/自分の感情がコントロールできない/採卵や注射の痛みが怖い/セックスの問題を抱えている/姑など家族との関係がうまくいかない/自分のことをわかってくれる人がいない(少ない)/そろそろ治療をやめたほうがいいのかなと心配しはじめている/自分の性格を何とかしたい/疲れた ‥‥等々
私はストレスのせいで妊娠できないの?
ストレスと不妊のことについて患者様からよく質問をされます。確かにストレスが原因で月経が不順になったり、勃起障害などの性機能障害が起こることはまれではないようです。しかしこのような場合を除いて、ストレスが直接的に不妊の原因になるという確かな証拠はありません。むしろ、「リラックスすれば(子どもが)できるよ」などといった周囲の無神経な言葉に傷つくことが多いのではないでしょうか。また、不妊症治療は身体的、経済的、時間的な負担を伴いますから、治療がストレスを生むということは知られており、それには適切な対処をすることが望まれるのですが、それは治療の結果として生じるものであり、不妊の原因とはいえないように思います。
カウンセリングを受けると妊娠するの?
残念ながらカウンセリングを受けると妊娠率が向上するという科学的なデータはまだ出ていません。しかし治療を続けていく上でのストレスの軽減には役に立つと考えられますし、何よりカウンセラーは、患者様がよりよい人生の選択ができるよう援助していきたいと考えています。そのため、時には治療をやめて子どもを持たない生活を選ぼうとする患者様の援助も行うこともあります。
不妊で悩む方へ
不妊で悩んでいる方の多くは、相談できる人さえいない状況におかれています。「不妊でない人に私の気持ちは理解できない」と思われる方が多いからです。もちろんそれはこれまで人に話しても理解してもらえず傷ついた体験を多くの方がお持ちであるということもあるでしょう。それゆえ不妊で悩む患者様同士がつながりを持つというのはとても助けになると思います。実際、欧米では患者様のグループが積極的に活動しており、精神的なサポートの大きな役目を担っています。ただ、日本では患者様たちの組織的な活動はまだまだ少ないのが現状です。また、グループでは十分に自分の気持ちが話せなかったり、何らかの違和感を覚えることがあるかもしれません。そのような場合は個人カウンセリングを受けてみるのも有効な方法だと思います。