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治療詳細

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治療に関するご質問

目次

卵子・受精卵について

卵子の質を良くする方法はありませんか?他院で治療を受けているのですが、1度も妊娠しません。
毎回、移植する受精卵の質が悪いと言われます。
問題点は、本当に卵子の質が悪いのか、本当にもう卵巣に良い受精卵になる卵子が残っていないのか、着床には問題がないのかということになります。2日目3日目の受精卵のグレードが低くても、その後良い胚盤胞になり、健康な赤ちゃんが生まれる人はいます。受精卵のグレードが低いということは赤ちゃんにならないということではなく、なる率が低いということです。2日目や3日目までしか受精卵を見ていなければ、妊娠しない本当の理由は説明できません。ただし高齢で受精卵のグレードが低い場合は、卵巣に良い卵子が残っていなくて、本当に受精卵の質が悪い場合が多くなってきます。
採卵した後に、卵の質を良くする方法はありません。従って、当院では、採卵周期に入るまでに患者さんの卵巣に合わせて、採卵周期に良い卵が採れるようにさまざまな工夫や試みを行っています。
卵子の質を良くするために、どんな日常生活を送ればいいですか?
基本的に、日常生活は、普通の生活や食生活を送っていれば良いと思います。ただし、喫煙と肥満は卵の質を悪くするというデータはあります。従って喫煙をしない、肥満であればダイエットをするということは重要と思われます。またカフェインの摂りすぎや、飲酒量が多いことも良くないとされています。サプリメントを摂った方が良いか、マカはどうかという質問には、おまじない程度の効果でしょうとしか答えられません。なぜなら明確な効果があるという証拠がないからです。ただし定期的に運動をしたり、体調を整えるために漢方薬を服用したりするのは良いかもしれません。そのほかにもアンチエイジングの考えから、当院でも成長ホルモン(GH)の注射をしたり、DHEA(男性ホルモンであり体の中で代謝されて女性ホルモン(E2)になる)を内服したりなどを試しましたが、妊娠率は変わりませんでした。 基本的に卵子の質に影響しているのは、卵子がつくられてから経過した年月です。何かをしてその年月が取り返せるとは思いませんが、努力をすることは良いと思います。やはり発育卵胞の数を増やしたり、刺激周期の方法を変えたりするのが一番だと思われます。
卵子の凍結保存はできますか?
はい。行っています。ただし、凍結卵子での妊娠率や出産率は受精卵での治療成績に比べると低いです。詳しくはご来院の上ご相談ください。
精子になる前の段階の精子を使って、受精卵を作ることについて教えてください。
この件については、10年以上前に海外で成功したという発表がされました。HARTクリニックでは、その分野の第一人者を広島HARTクリニックに招き、日本の患者さん数十人にその治療を行ないました。結果、受精まではするものの妊娠は1例もありませんでした。つまり、精子になれないということは、精巣内の環境が悪いだけでなく、遺伝子レベルでなんらかの異常があると考えられます。したがって、彼の論文は信用できませんし、その後同様の論文も発表されていません。以上のことから、HARTクリニックでは、精子にならない細胞を使っての治療は行なっていません。

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採卵・卵巣刺激について

自然周期採卵を行っていませんか?
自然採卵周期での体外受精は妊娠率や出産率が低いので、世界的には行われていません。従って、世界の最先端医療を行っている東京HARTクリニックでも、絶対行わないというわけではありませんが、行っていません。
体外受精が広く行われている諸外国の医者はもちろんですが、外国の患者さんも自然周期で体外受精ということは全く考えていません。不妊患者さんには、自然周期採卵は日本だけで行われているということを知っていて欲しいのです。ヨーロッパ、米国、オーストラリア、東南アジアなど、日本以外の全ての国で、体外受精は全て卵巣刺激周期で行っています。これが世界のスタンダードなのです。海外の全論文を検索してみると、イギリスからの1論文とスロバニアからの1論文がそれぞれ3周期と1周期について自然周期採卵を若い患者さんで試しに行ってみた報告がありました。両論文ともに、30歳位の平均年齢の若い患者さんですが、キャンセル率が高く、妊娠率も高くないので、追試報告もありません。また、自然周期で得られた胚の染色体異常の出現頻度を研究した報告(2008, Human Reproduction)によると、異数性のある胚の割合は卵巣刺激を行った場合と変わらない結果でした。この論文では30名の患者さん(平均年齢31.4歳)を自然周期で採卵し、ICSIを行い6分割期にFISHという方法で7種類の染色体の異数性を検査(PGS)しました。30周期で21個の卵が採れ、15個が正常受精し、11個の分割胚に対しPGSを行ったところ、4個は異数性がある異常胚であり(36.4%)、異数性のない6個を移植し2人の女児が生まれました。つまり、30人中出産に至ったのはたったの2人でした。最近の大規模なアメリカでのPGSのデータでは、30歳代前半の刺激周期の8~10個採卵での染色体異常率は38%であり、このことからも自然周期採卵の方が良好胚が得られるとは考えられません。あくまで世界の標準は卵巣刺激周期の体外受精であり、より妊娠率が高く、より少ない回数の採卵で赤ちゃんが生まれる治療法を行っています。
ホルモン剤使用の危険性はどうなのですか?
主に使用されるホルモン剤は、卵胞ホルモン剤と黄体ホルモン剤です。
製造会社の説明書には、妊娠中の使用は避ける事とありますが、世界中で20年以上使われていますが胎児に異常を起こしたという報告はありません。従って臨床的に妊娠中使用しても胎児に異常を起こさないと証明されていると言えます。
しかし、過去に、卵胞ホルモンのある1種類(現在は使用されていません)が胎児影響を及ぼした歴史があるため、妊娠中は使用しないという1文があるのです。また、現在はPL法(製造者が責任を取らねばならない)が施行されているため、ほとんどの薬の説明書には妊娠中の使用は避けることと明記されていて、妊娠中に使用して何かが起こっても製造者は責任を持ちませんということを明記してあるのです。
卵胞をたくさんつくると卵子の質が低下しませんか?

2008年から2010年までのASRM(アメリカ生殖医学会)に登録された25万6381周期の体外受精周期の分析から、生児出産率は、0~5個採卵の群では17%、6~10個採卵の群では31.7%、11~15個採卵の群では39.3%、16~20個採卵の群では42.7%、21~25個採卵の群では43.8%、25個以上の採卵の群では41.8%と採卵数が多いほど、赤ちゃんが生まれる率は高いことから、多くの卵胞を育てても質は低下しないと言えます。

またオーストラリアのMonash IVFの2010~2012年の7697周期のデータを分析すると、下のグラフ(1)のように採卵数が多いほど、妊娠率、生児出産率が高いと報告されています。さらに妊娠率も生児出産率も分割卵移植では採卵数が増えてもあまり変わりないけれども、胚盤胞移植では採卵数が増えるとそれぞれの率が上がっていきます(2), (3)。胚盤胞まで育てたほうがより生まれる確率の高い胚を選択できるためと考えられます。
以上の報告から、たくさん卵胞を育てても卵子の質は低下しませんし、多くの中から良好な胚を選ぶことで妊娠率は上がります。

当院では、以上の報告をもとに10~15個の採卵を目指して卵巣刺激周期での採卵を行い、胚盤胞移植を推奨しております。
自然周期での採卵はほとんど行っておりませんが、詳細について知りたい場合は外来を受診の上、直接医師にご相談ください。

 

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卵胞をたくさん発育させると卵巣の卵が早くなくなり閉経が早くなりませんか?
卵巣の卵は妊娠20週までに700万個作られます。赤ちゃんになって生まれるときに100万個に減っています。排卵が始まる思春期には30万個に減っています。要するに排卵して卵巣の卵子は減るだけではなく、排卵しなくても減っているのです。毎日30~40個なくなっています。知らないうちに多くの卵が失われているのです。したがって採卵周期に卵巣刺激をして10~15個卵をとっても卵巣の予備の卵の数の大半には影響ないのです。
したがって卵巣刺激周期で複数採卵しても閉経が早くなることはありません。
OHSS(卵巣過剰刺激症候群)とはなんですか?
卵巣を過剰に刺激すると卵巣にたくさんの卵胞が育ち卵胞ホルモンが多量に出て、血管内の水分が腹腔内に移動し腹水がたまり、血液が濃くなり(脱水状態)、血管内で血液が凝固し易くなる病態です。重症の場合入院して脱水の改善のため大量輸液をします。PCO(多嚢胞卵巣)や反応良好卵巣の人がなり易い傾向があります。一般的には、採卵周期に排卵させないために、GnRHアゴニストの点鼻薬を使用して、患者さん自身のFSHとLHを分泌させないようにします。従って、刺激の注射を毎日しないと卵胞が発育しないため、発育卵胞数を制限することが困難でした。しかし、現在は卵巣刺激を少ない量の注射のみで開始し、発育卵胞数を制限し、排卵させないようにGnRHアンタゴニスト(卵胞ホルモンの分泌を少なくする作用もあります)を使用し、トリガーをHCGの注射ではなく点鼻薬を使用してリスクを少なくしています。 さらにカバサールという腹水を予防する薬を投与するとさらにOHSSの発症のリスクが下がります。また、OHSSをしっかりと回避する強力な方法として卵胞ホルモンの合成を阻害するアロマターゼインヒビターであるフェマーラを内服すると血中卵胞ホルモン濃度は半分以下に下がり、OHSSを回避することができます。採卵後でも、全胚盤胞をガラス化保存となりますが、フェマーラを数日間内服することによりOHSSを回避できます。
夫の出張が多く、あるいは単身赴任中で排卵日または採卵日に夫が来院できないのですが治療は可能ですか?
人工授精でも体外受精でも、前もって精子を凍結保存しておけば治療は可能です。ただし、凍結精子は解凍後は運動率が下がるため当院では凍結精子を使った人工授精はあまりおすすめしていません。体外受精の場合は、受精方法を顕微授精にしています。
自宅での採精でも治療は可能ですか?
自宅採精でも2時間以内に精液を持ってきていただければ問題ありません。
採卵時の麻酔は行っていますか?
当院では全例で麻酔を行います。局所麻酔かあるいはまったく痛みを感じない静脈麻酔を行っています。どちらの麻酔で採卵しても約3時間以内に帰宅できます。

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治療全般について

PCO(多嚢胞卵巣)なのですが、東京HARTクリニックではどのような治療を行っていますか?
PCOで問題となるのは、排卵が起こりにくいこと自体ではなく、卵の質が問題となる場合が多いです。
一般不妊治療では、まずは必要最低限の卵巣刺激を行い排卵まで持って行き、タイミング法や人工授精を行います。1個の排卵で妊娠まで至らないようなら、
卵巣刺激を行い複数個排卵させるようにして妊娠する確率を高めます。
ただし、PCOの症例では排卵数を2~3個に調節することが難しい場合もあり、また古い卵胞が残っているために出てくる卵の質が良くない場合が多いことから、多くの卵を利用する体外受精が最も効率のよい治療であると考えられます。2015年1月から2016年1月までの1年間に当院で体外受精の治療を受けたPCO患者33人についての検討では、出産あるいは継続妊娠は26人で、ホルモン補充周期での継続妊娠が22人、クロミッド+HMG排卵周期での継続妊娠が4人でした。MD双胎が1人、DD双胎(CC+HMG周期で融解移植胚盤胞1個でしたが、自然妊娠もされたと思われます)が1人でした。
1年間で継続妊娠した患者の平均年齢は36.3歳、妊娠しなかった患者の平均年齢は40.0歳でした。PCO患者の66.7%(22/33)はホルモン補充周期で、クロミッド内服排卵周期を含めると78.8%(26/33)が1年以内に継続妊娠されています(ときにホルモン補充周期では着床しない例があります)。
PCOでも若ければほとんどの患者が出産可能なことから、35歳までに出産するよう、治療を始めるのが良いと考えます。
>>PCOについての当院の学会発表の内容はこちら
子宮内膜症があるといわれましたが妊娠可能ですか?
妊娠は可能です。ただし、卵管が機能してない(卵管采癒着によるpick up障害)ことが多いので、治療法としては体外受精が最も妊娠する可能性が高いです。
子宮内膜症は、原因は不明ですが大きく次の3つに分けられます。
(1) チョコレート嚢腫:子宮内膜が卵巣内に移植されたものをチョコレート嚢腫といいます。これにより、卵巣内の卵子が年齢より早く数を減らしたり、卵の質を悪くしたりします。手術をしてチョコレート嚢腫を摘出すると予備の卵はほとんどなくなってしまうことが多いです。したがってできるだけ手術をしないで妊娠を目指します、どうしても手術が必要な場合は不妊症に詳しい施設での手術が良いです。不妊症を知らないドクターが手術をきれいに行いすぎて、閉経状態になる症例をたくさん見てきました。
(2) 子宮腺筋症:子宮筋層内に移植されたものを子宮腺筋症といいます。子宮が子宮筋腫のように大きくなり、血流が悪くなって、胚が着床し難くなります。胚を着床しやすくする治療は可能ですが子宮腺筋症を手術などで根治するのは難しいです。
(3) 卵管采癒着:子宮や卵巣の表面、腹膜上に移植されたものがあり、主に子宮後方で卵管采癒着を起こします。病態としては、生理の時にその病巣部に出血し、古い血液が卵巣に溜まったり、腹膜や腸や卵管が癒着を起こしたり、子宮の筋層内に出血し炎症を繰り返し、子宮が腫れて硬くなったりする病気です。従って卵管通過性があっても卵管性不妊となり易いのです。さらに卵巣に炎症が起こるため、卵巣血流を悪くしたり、卵の質を悪くしたりします。従って、年齢より早く、卵巣を刺激しても反応が不良になり、卵の質も悪くなることが多く、受精卵の質が悪くなるのです。
以上の理由から、欧米では、子宮内膜症がある人はできるだけ早く体外受精治療に進みます。治療としては早期に妊娠し、出産するのが一番です。
妻の年齢が40歳ですが、タイミングから始められますか?
タイミングから始めることはできます。しかし、年齢による卵巣や子宮の機能低下を考えると、タイミング法での妊娠率はきわめて低いといえます。過去の妊娠歴にもよりますが、治療法として、人工授精や体外受精をお勧めします。
ちなみに、人工授精の妊娠率は、東京HARTクリニックでは1周期あたりで約8%です。40歳の人が当院で1回体外受精をすると約4~5割の人が妊娠されますが、赤ちゃんが生まれる人は約3割と低くなってしまいます。卵子の質の低下により流産が増えてしまうということです。年齢的に、半年単位で卵子の採れる数や質が急速に低下してしまう人も珍しくありません。要するに、時間的余裕が残されていないということです。赤ちゃんとして生まれる妊娠が目的ですから、妊娠率がより高い治療法をお勧めします。
クロミッドを飲んでいますが生理の量が減ってきましたが問題はないですか?
もともとこの薬の開発の目的は、避妊のためでした。卵胞ホルモンの作用と拮抗する薬を飲めば、着床するための子宮内膜はできないし、精子が子宮に入るために必要な頚管粘液も出ません。しかし生理周期初期に飲むと卵胞がたくさんできる傾向があることが分かり、現在も発育卵胞を増やす目的で使用されています。その原理は、生理周期初期に飲むと、ヒトの脳は卵胞がまったく育ってないと勘違いをし、下垂体から卵胞刺激ホルモン(FSH)を多く分泌し、卵巣を強く刺激して何とか卵を出そうとします。そのため反応の良い卵巣からは多くの卵が育ちます。
しかし、毎周期使っていると抗卵胞ホルモン作用により子宮内膜が薄くなり、頸管粘液は分泌されなくなり逆に妊娠しにくくなります。個々の患者さんや年齢にもよりますが、3~4周期続けたら一時中止するのが一般的な使い方です。従って、年齢が37歳を過ぎて子宮機能が衰えてきている人(頸管粘液の分泌が少なくなってきたり、性状が悪くなってきている人)が、クロミッド周期でタイミング法を試みても妊娠例はほとんど出ません。
不育症について教えてください。
妊娠しても流産を繰り返してしまう病態を不育症あるいは習慣流産といいます。適当な用語が日本になかったので、25年ほど前に慶應義塾大学病院の産婦人科外来で、特殊外来として不育症外来と命名して使われ始めました。以前は3回以上流産を繰り返した状態を習慣流産と診断していましたが、結婚年齢が上がったこともあり、20年以上前から2回以上流産を繰り返した場合も含めるようになりました。当時の不育症の病態に対する基本的な考えは、母親とは免疫的に異なる胎児が子宮の中で発育していくための母体の免疫的機能が十分機能しなくて拒絶されてしまう、すなわち流産してしまうという考えでした。当時は、卵子が不良で受精卵が悪いため発育を止めてしまうという考えはあまりありませんでした。従って検査や治療法も免疫的なものが中心でしたが、当時の治療データを見て治療効果があると私が思ったのは子宮奇形の手術療法のみでした。 アメリカで大規模な試験(習慣流産患者に夫リンパ球を注射したグループと生理食塩水を注射したグループに分けて次回の妊娠経過がどうかで効果判定をした)を行い、免疫療法の効果はないとの研究結果が発表されました。また同様にHLAタイピング検査についても同様に調査され、習慣流産患者に対するHLAタイピング検査の有効性はないとの論文が発表されました。さらに230例以上の稽留流産の調査をし、76%に染色体異常が見つかり、染色体が正常でも18%に胎芽の異常があったとの論文が発表されました。要するに、流産する妊娠はほとんどが異常な受精卵による妊娠であり、逆に正常な受精卵だと赤ちゃんとして生まれてくるということです。従って、世界中で調査してみても、自然妊娠でも、体外受精や顕微授精でも生まれてくる赤ちゃんに差は出ないのです。 海外での卵子提供では、良好卵を提供されればほとんどの患者さんが正常な赤ちゃんを出産されます。 臨床的にも、患者さんが37~38歳で体外受精や顕微授精で1人目の赤ちゃんが生むことができて、患者さんが40歳以上になり、2人目希望で同様に治療しても全て流産になってしまうということが起こる方がいらっしゃいます。その理由は、患者さんの加齢によって卵巣から異常卵しか出せなくなってしまったのです。若年の30歳前後でもタイミング法や人工授精で妊娠して3回目まで全て流産(流産手術時に検査すると全てが染色体異常)になり、4回目以降の妊娠は全て出産という方もいらっしゃいます。卵巣に良い卵が残っているということです。 何故赤ちゃんという異物が子宮内で拒絶されずに発育できるかの詳細は依然不明ですが、上記のことや日々の受精卵の観察とその妊娠結果から、結論として、流産が起こる理由は、異常卵による異常妊娠であるから流産がおこり、自然淘汰されるのです。逆に、正常受精卵の妊娠であればほとんど正常な赤ちゃんとして生まれると言えると思います。
男性不妊治療は行っていますか?
当院では、泌尿器科で行う、精子を増やすという治療は積極的には行っていません。以前は積極的に行った時期もあるのですが、どの治療(漢方療法、FSHの注射、精索静脈瘤の手術など)もあまり有効性が確認できないのと、そのために年単位の時間がかかるものもあり、その間に奥様の加齢による卵子の質の低下を招く恐れがあります。
そのため、現在は精子減少症や精子無力症や無精子症にはすぐに対応できる治療方法、人工授精(漢方薬併用する場合あり)や顕微授精TESEで治療を行っています。泌尿器科的精査や治療が必要な場合、男性不妊専門のクリニックを紹介し、協力して治療を行っています。
DHEA(デヒドロエピアンドロステロン)などのサプリメントは不妊症治療に有効ですか。
DHEAは男性ホルモンの一種です。女性の体内で分泌されていて、体内で代謝されて女性ホルモンや男性ホルモンに変わります。25歳以降、分泌は減少します。したがって、DHEAを投与すれば細胞老化を防げるのではないかという発想です。欧米のアンチエイジングの考え方からきています。 いくつかの臨床研究によって卵巣予備能の低下した女性にDHEAを投与することによって卵巣の反応性が改善し、妊娠に至る確率も上昇すると報告されていますが、その機序は明らかにされていませんでした。しかし最近の研究で、DHEAを補充投与された羊の実験では、原始卵胞の発育の開始を促進し、前胞状卵胞の発育を促したと報告されています。DHEAを投与してすべての人に効果が期待できるとは考えませんが、効果がある人がいる可能性を否定できません。他のサプリメントについては、有効であることが証明されたものはありません。GH(成長ホルモン)注射(アンチエイジングに使用される)も有効性を認めた経験はありません。
ビタミンDを補充すると妊娠率があがりますか?
ビタミンDが欠乏すると着床率が悪くなり、ビタミンDを補充すると着床率が改善したとの報告がありました。
しかし、最近の南ヨーロッパの不妊患者(ビタミンDの不足や欠乏がよく認められる)についての研究で、卵子提供のプログラムでビタミンDが正常であった41人、不足していた134人、欠乏していた92人に卵子提供を行った結果、着床率(移植胚1個当たりが着床する率)はそれぞれ61%、63.4%、65.2%でした。
妊娠率はそれぞれ70%、69.9%、73.9%、継続妊娠率はそれぞれ55.9%、52.7%、60.7%で差は認められませんでした。したがって血中ビタミンDのレベルは治療予後の予測因子にはなりません。

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胚移植について

SEET法は行っていますか?
行うことはできます。ただし現在積極的には行っていません。以前HARTクリニックでSEET法を行って有効性を検証しましたが、明らかな有効性を認めませんでした。もともとHARTクリニックではガラス化胚盤胞融解移植周期で子宮鏡を行い、子宮内膜を洗浄することで刺激を行っているため、有効性が認められないのだと思います。
2段階胚移植法について教えてください。
体外受精や顕微授精において、胚移植を2度(受精後3日目と5日目)行なう方法です。胚を前もって移植することで子宮内膜に変化が起こり、2度目の胚移植が着床しやすくなるという仮説から行なわれています。しかし、この仮説は証明されているわけではありません。
世界的な流れは、単一胚移植・単体妊娠です。HARTクリニックも、2段階胚移植法は単一胚盤胞移植の成績と変わらず、双胎が増えるだけだと考えます。
なぜなら、採卵周期に着床しない理由は、子宮内膜の日付が受精卵の日付より先行しているからです。子宮内膜と胚盤胞は対話しながら着床するので、この日付がずれることにより、着床が難しくなります。つまり、採卵周期で着床しにくくなっている方に、2段階移植を行なうのは、妊娠の可能性のある胚を無駄にしていることになります。
そこで、HARTクリニックでは、採卵周期に着床の問題がある患者さんを救うため、余剰卵を有効に利用するために、胚盤胞ガラス化保存法を完成させました。
採卵周期ではなく、ガラス化胚盤胞を融解移植する周期を作ることにより、子宮内膜と胚盤胞の日付にずれが起こらない周期での移植が可能になりました。ほとんどの方に着床の問題は起こりません。妊娠率も採卵周期と比べて20%高くなりました。
以上のことから、着床の問題が起こる患者さんを救う方法は、2段階胚移植ではなく、胚盤胞ガラス化保存法だと考えます。

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出生前スクリーニングについて

PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)は有効ですか?
主に海外では、反復体外受精不成功(着床障害)、反復流産、高齢女性、卵子提供プログラムで染色体の数が正常な胚盤胞のみを移植するためにPGT-Aが行われています。日本では反復不成功と反復流産の方を対象に行われています。 下記の表は米国でPGT-A検査を中心に行っているReprogenetics社の2012年の社内データによると、胚盤胞の染色体の数が正常である率は、

卵子提供者(多くは20代):60~70%
34歳以下:50~70%
35歳~39歳:50%
40~42歳:約30%
43歳以上:10~20%です。

40歳以上でPGT-Aを行っても、胚盤胞が5個程度ないと、異数性の胚盤胞のみで、移植する胚盤胞がないということになりかねません。手間と費用をかける価値があるかどうかを患者さんがどう考えるかです。検査をしないで複数移植するのでもいいと思います。 アメリカでのPGT-Aについて、2つの施設のデータを合わせた臨床結果の2014年の報告では、平均年齢37.8歳、平均移植胚数が1.9個、妊娠率が55.4%、継続妊娠率が49.3%でした。流産率は7.1%と低い数値でした。このことから、胚盤胞が多く得られる場合には、PGT-Aを行うことで継続妊娠に至るまでの期間を短縮することができると考えられます。 >>PGT-A(論文が発表された時期にはPGSと呼ばれていました)についての記事はこちら
相互転座やロバートソン転座による習慣流産について診断はできますか?
現在ではPGT-SR(着床前胚染色体構造異常検査)で、流産になってしまう不均衡型と、正常に生まれてくる正常と均衡型を区別することができます。

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