当院院長 岡が、2015年9月26日(土)-27日(日)に福岡にて行われた第18回IVF学会にて講演を行いました。
講演の内容は下記の抄録をご覧ください。
『シンポジウム~ ART 専門施設と周産期のネットワーク 生殖医療の現場から』
近年,体外受精の治療の進歩に伴い広く多くの体外受精児が生まれており,不妊治療には不可欠な治療法になっている.しかし,画一的な治療では成功しない症例も経験し,勉強させられる.今回,治療に苦慮した症例を2例報告し考察を加えた.同様な症例は海外からも報告されている1-4).
症例1
患者(M.Y.)38 歳,2013 年12 月3 日に人工授精1 回,体外受精1回,ICSI 1回失敗し挙児希望にて当院初診.月経は37 〜38日型であるが,不整であることが多かった.結婚は33歳.不妊歴3年.妊娠歴はない.他院での不妊治療歴は1年間であり,人工授精1回,体外受精はクロミッド周期採卵で,トリガーは点鼻薬を使用し,採卵2回(採卵1回目;採卵数9個,媒精にて受精し,胚盤胞1個凍結.融解胚移植するも妊娠せず.採卵2回目;採卵数2 個,ICSI するも移植に至らず).AMH27.1 〜41.2pmol/L,精液検査;量2.5ml,濃度47M/ml,運動率60%,他医から紹介される.原因不明不妊症と診断し,当院での体外受精を開始した.
体外受精1回目;月経開始3日目からFSH225単位連日皮下注,卵胞径が1.4cmでアンタゴニスト連日投与開始し,トリガーとして生理開始15 日目のPM11 時にHCG10,000単位皮下注した.卵胞は右6個,左4個であった.採卵は右1個,左2個,2個が成熟卵でICSIを行い,正常受精1 個,Day2 で2 分割,Day5 で2 分割と発育停止しておりキャンセルとなった.
体外受精2回目;卵の質が悪い,かつICSIによる卵子の活性化が不十分と考え,IVF予定とし,ロング法でFSH225 単位連日投与した. 卵胞は右6 個, 左8 個HCG5,000 投与3 日前に血中E2 は3,725pg/ml であった.採卵は右1個,左4個であった.媒精で2PNは1個であり,Day5には発育が2分割で停止していた.
体外受精3回目;卵の質を良くする可能性があるため1 周期OCP 内服し,アンタゴニスト法とし,誘発はHMG225IU連日投与で行いトリガーはHCG10,000IUを投与した.卵胞は右6個,左3個であった.採卵数は3個,媒精で精子は接着しているが,正常受精は0個で分割しなかった.
体外受精4回目;ここまでの結果で,おそらく排卵の引き金の効果がHCGでは不十分なこと,受精のとき卵子の活性化が十分に起こっていない可能性があるので媒精で受精を行うことを患者に説明し,月経開始前に1週間ジュリナ(E2)1mg /日内服し,トリガーは点鼻薬で行うためにアンタゴニスト法で行い,卵巣刺激はHMG300連日投与で行った.卵胞は右7個,左10個であった.採卵数は9個,精子は不良であったためICSIとし,8個正常受精し,Day3で7分割1個を移植した.その他はDay3 で5 分割1 個,4 分割1 個,2 分割4 個であった.胚盤胞にはならなかった.受精方法がconventional ICSIであったため活性化が十分起こらなかったと説明し,精子の状態が媒精での受精は難しくなっているためmodified ICSI(M-ICSI)5)にすることを説明し5回目の治療を行った.
排卵誘発は4回目と同様に行った.卵胞は右9個,左8個であった.採卵数は16個,受精は媒精にて正常受精は8個中6個,M-ICSIにて正常受精は8個中8個であった.3日目に5 ~ 8分割13個,Day5に胚盤胞1個(媒精)移植し,Day5 に胚盤胞5 個(M-ICSI による3 個,媒精による2個)ガラス化保存し,Day6に2個(媒精による2個)ガラス化保存した.新鮮胚盤胞移植では妊娠せず,ガラス化胚盤胞(M-ICSIによる)1個融解移植し妊娠継続中である.
症例2
患者(J.F.)33 歳,2012 年6 月28 日人工授精10 回,顕微授精1回失敗し挙児希望にて当院初診.結婚は30歳,不妊歴3 年, 他院でのAMH11.3ng/ml,Day3 採血でFSH10.4mIU/ml, LH9.7mIU/ml,テストステロン67ng/dlであった.妊娠歴はなかった.初診時診断はPCOと男性因子であった.
当院での体外受精はアンタゴニスト法2回,ロング法3回,いずれも低用量ピルを1周期内服し前処置を行い,すべてICSIで行った.新鮮胚移植を予定したが,OHSS回避と胚の発育が遅いため行わなかった.5回の採卵で計11個の胚盤胞(③~⑤の段階でDay5にAB×2,BB×1,Day6にBB×4,BC×2,CB×2)がガラス化保存できた.
2013年1月16日にホルモン補充(HRT)周期のDay5に2個融解移植した.2013年7月27日にHRT周期でDay5に1個融解移植した.2013 年12 月14 日にDay6 で2 個融解移植した.2014年2月14日に自然排卵周期で排卵後5日目に融解移植したが,いずれも血中hCG37mIU/mlまでの値であった.着床に問題があると考え,HRT周期のDay5の子宮内膜をcurettageして,病理学的に子宮内膜日付診を行った.結果はPOD3(排卵後3日目)であった.HRT周期のDay7にガラス化胚盤胞2個融解移植し,健児を1人出産した.
考察
症例1は,HCGレセプターが十分機能していないため卵子が卵胞壁から離れ難く,採卵数が少なくなり,受精の準備が十分できてないため,正常受精率が低く,胚盤胞に到達しなかったと考えられる.さらに,conventional ICSIでは卵子の活性化が十分に誘起できなかったため受精率が低く,受精後の発達が遅く胚盤胞に到達できなかったと思われる.
他院の治療歴からGnRHアゴニストでトリガーを行いIVF で受精させれば胚盤胞ができていること,conventional ICSI周期で移植できる胚はできなかったことを深く考えていれば,もう少し早く妊娠したかもしれない.海外の論文では8回目の採卵で生児を得ていることから難しい症例なのだと思う¹).GnRHアゴニストをトリガーとしmodified ICSIで胚盤胞が得られたことから,卵の活性化の効果があったと考える.
症例2については,7個のガラス化胚盤胞を自然排卵周期やHRT周期のDay5やDay6に移植して妊娠せず,Day7に移植して妊娠出産できた.同様に行い継続妊娠中の症例もあるが,稀にみられる症例と思われる.海外の論文では4回のIVFと3回の卵子提供治療に失敗した後,子宮内膜の受容能を調べるendometrial receptivity array test(ERA)を着床期内膜組織に試み,着床期ウインドウに2日のずれを認め,黄体ホルモン投与後7日目に提供卵子での胚盤胞2個を移植し,2人の健児を得ている.反復着床不成功例では4人に1人は着床期ウインドウのずれがあるとの報告もあり,子宮内膜の受容能を個別に確実に調べる方法の確立が望まれる4).
参考文献
1) R. Beck-Fruchter, A. Weiss, M. Lavee, et al.: Empty follicle syndrome: successful treatment in a recurrent case and review of the literature. Hum. Reprod., 27: 1357-1367, 2012.
2) F. Lok, J. Pritchard, H. Lashen.: Successful treatment of empty follicle syndrome by triggering endogenous LH surge using GnRH agonist in an antagonist down-regulated IVF cycle. Hum. Reprod., 18: 2079-2081, 2003.
3) D. Griffin, R. Feinn, L. Engmann, et al.: Dual trigger with gonadotropin-releasing hormone agonist and standard dose human chorionic gonadotropin to improve oocyte maturity rates. Fertil. Steril., 102: 405-409, 2014.
4) M. Ruiz-Alonso, N. Galindo, A. Pellicer, et al.: What a difference two days make: “personalized” embryo transfer(pET) paradigm: A case report and pilot study. Hum. Reprod., 29: 1244-1247, 2014.
5) J. Tesarik, L. Rienzi, F. Ubaldi, et al.: Use of a modified intracytoplasmic sperm injection technique to overcome spermborne and oocyte-borne oocyte activation failures. Fertil. Steril.,78:619-624, 2002.