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ミトコンドリア遺伝病について

基礎医学

ミトコンドリアには独自のDNAが存在する

ヒトの細胞質には独自の遺伝子を持ったミトコンドリアが存在していて、細胞にエネルギーを提供し、逆にミトコンドリアが必要なタンパク質の大部分はヒト核遺伝子によりつくられ、ミトコンドリアのDNAの複製は厳密に核DNAによってコントロールされています。受精のときに侵入した精子のミトコンドリアは卵子の酵素で死滅し、卵子(母親)のミトコンドリアが100%受精卵に受け継がれ、母親のミトコンドリアに異常があると母系遺伝をして子供にそのまま受け継がれて神経や筋肉の病気になります。

不妊治療において卵子の質が非常に重要ですが、卵子の質の低下としては、核DNAの染色体異常と、細胞質の老化が考えられています。細胞質の老化とはすなわち、ミトコンドリアの質の低下です。卵子の質の改善法として、過去に細胞質移植という方法が行われていた時期がありました。

卵子の質の改善としての細胞質移植

2001年まで一部のグループ(米国のコーエン等が中心)が卵子の若返りとして、顕微授精の際に良好な提供卵子の細胞質(ミトコンドリア)を卵子に注入する方法を行い、当時世界で約30人の赤ちゃんが生まれていました(本当に治療効果があったかは不明です)。
しかし、彼らは生まれた赤ちゃんの細胞内に、2種類のミトコンドリアが存在していることを発見し、その論文を発表しました。ミトコンドリアは母親のみから子供に受け継がれ(ミトコンドリアの遺伝子を調べていくと、アフリカの一人の女性が人類のルーツであると分かります)、動物は1種類しかミトコンドリアを持っていません。ミトコンドリアは、2種類が同時に存在すると変異を起こし易くなる可能性が高くなり、ミトコンドリア病という神経や筋肉の病気を起こし易くなる可能性が高くなります。

2001年のその論文がきっかけとなり、世界中のあらゆる分野の学者がその治療法に対して批判的に論争し、現在では自然では起こりえない変化をもたらす不妊治療や、生まれた赤ちゃんに何が起こるか予測できない不妊治療は、世界的に禁止されています。

一方、クローン細胞作成の際に行われるのは、細胞質移植ではなく核移植です。核移植についても、少量ですがミトコンドリアの持ち込みが生じます。そのため、卵子の若返りのためにドナーの未受精卵に患者の未受精卵の核を移植するといった治療を行うことも、多くの国では禁止されています。

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